風祭文庫・頂き物の館

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頂き物・水泳部の男の娘Ⅱ

水泳部の男の娘Ⅱ

第1話「新入生(ニューカマー)」

 3月の終わり。
 沼ノ端駅のコンコースに一人の女子が降り立った
 「…ここね」
 しかし、この女子、どこかおかしい。
 やけに派手なワンピースやスカートを着ている割にどこかに合っていない
 化粧もやや美人のように見えるがどこかに合っていないというか、不自然だ。
 それもそのはず、この女子、今は男子なのだから。
 とはいえ、気持ちの悪い女装男子かもしれないが、彼が女装するのには理由があった。

 3年前、沼ノ端とは遠くの離れた地域で起こったあの製薬会社の事故。
 その事故は製薬会社に社会見学に来ていた当時中学2年生の女子生徒を男子に、そして化生に変えた。
 だが、あの事故の犠牲者はもう一人いた。
 それが彼女、いや、彼である。

 彼の名前は桂木青葉。女子だったころの名前は桂木青恵といった。
 いきなり男子生徒になったこと、そして男子の体つきの変化に対して周囲の人間は彼のことを変態のように扱った。
 体は男性であるため、本人がどんなに女性として扱われることを望んでも周囲はそれを許さない。
 そして、成長期の男の子である、ということから月日とともに、身長は伸び、筋肉が付き、そして毛が生えてきたうえに、
 股間からぶら下がっているものもどんどん大きく目立ってくるようだった。
 そんな中でも抗い、女装しようとしても女装を禁じられ、そのうち学校にも行かずにひきこもりに近い状態になった。
 卒業も近くなり、家族からも邪険に扱われるようになった。
 中学校を卒業したら、家出をしてニューハーフの道にでも進むのしかないのだろうか?そう考えていたころだった。
 青葉は中学校に呼び出された。何日も学校に来ていないことや、男子生徒として扱われることを受け入れろという注意は
さんざん聞き飽きていた。
 だが、内容は違った
 「え…あたしが、高校に?」
 「おめでとう。桂木。」
 「でもあたし推薦状なんて出した覚えは…」
 「今のお前はお世辞にもいい内申点をつけることはできないし、ろくに学校にも来ていないお前がろくな高校にもいけないんだ。
ここはひとつ、推薦を受けて進学しておいてくれんか」
 たしかにそうだ。このまま行っても事態は改善しない。それに遠くにある高校だから知り合いもいない。そう考えた
 それで青葉は進学を受け入れたのである。

 
 「ここがあたしの新天地か。」
 そして、青葉は新しい住所についても教えられた。
 沼ノ端市内のとあるマンション。そこには沼ノ端高校の生徒が多く生活しているらしい。
 青葉はさっそく自分が家で使用していた女物の小物などを部屋に置き、生活空間を立ち上げた。
 「一人だから女装してても文句言われないし。」
 彼は一人だけの空間を満喫していた。
 だが、彼はポストに1通の手紙があることに気が付いた

 「桂木 青恵さん
  高校入学おめでとうございます。
  今週末私の家に来てください。ぜひ見てもらいたいものがあります  木之下杏」
 こう書かれていた。
 手紙の主は木之下杏。何を隠そう3年前の事故のもう一人の被害者である。
 彼もまた沼ノ端高校に進学していたのだ。
 青葉は自分が一人ではないことを改めて認識した。

 終末。
 青葉は杏の部屋の前にいた。
 「おじゃまします。」
 「入って。」
 青葉の目の前にいたのは、長髪のかつらをかぶり、女性もののエプロンをかけていた、
 どこからどう見ても女性にしか見えない。
 「あなたが青恵さんね。あたしは木之下杏。あなたと同じ、性別を奪われちゃったの。
 あたしもずっと肩身の狭い思いをしていたから、今日はあなたと女の子同士の時間を過ごしたいと思って。」
 目の前にいる完璧に女性にしか見えない男性、
 青葉は彼女に惚れてしまいそうだった。
 もっとも、自分の女装がお世辞にもうまいものであるとは言えないことを忘れて。

 二人はスイーツづくりに没頭し、女の子のすきそうなおしゃれなスイーツをいくつも作ってみた。
 すると、杏は一つの果物を取り出した。
 「この果物、食べても何もなかったら女の子だって証なんだって。青恵さん、ちょっと食べてみてくれる。」
 杏が冗談交じりにでも言っているのだと思い、青葉はその果実を食べる。
 数分後
 「この果物食べても、何も起きない、やっぱりあたしは女の子…」
 そういおうとしたとき、杏は口を開いた
 「青恵さん…いや、青葉くん…。ボクがきみに嘘をついていた。」
 杏の口調が急に変わった。
 「!?」
 「…そ、それは別に女の子だって男の子だって関係ないってことじゃないの?」
 青葉は急に焦りだした
 「そうじゃない。その木の実、普通の人間にとっては恐ろしい猛毒なんだよ。」
 「…」
 「青葉、突き落すようで悪いけど、君はもう完全な男の子だし、普通の人間じゃなくなったんだよ」
 「ええ!」
 青葉はその場に崩れ落ちた。
 「それに、そんなへたくそな女装じゃ、絶対男だってばれるよ。」
 「…それに、これが今のボクの姿だよ。見ておくといい」
 杏は長髪のウィッグを外し、少女趣味のエプロンを思いっきり外した。
 それは美少女というよりもどうみても美少年だといえる顔つき、
 筋骨隆々だが一切無駄のない均整のとれた体つき、
 そしてブーメランタイプの競泳パンツを猛々しく張り上げていた
 「・・・・」
 青葉は赤くなってしまった。目の前にいたのは気持ちの悪い女装男などではなく、いっさい男臭さを感じさせることのない
完璧なイケメン男子だった。
 「…青葉は泳いだことはあるの?」
 「水泳の授業でちょっとあったけど、あんまり泳げる感じじゃない」
 「水泳部になれば、からだの毛を全部そっていても問題はないけど、君の体を見る限り無駄に剃刀を入れすぎて
皮膚がきづついてるようだね。ボクが無駄毛が生えてこないスキンケアも教えてあげるから。」
 「それに、こんなへたくそな女装じゃ絶対ばれるから。完璧な女装の仕方とかメイクとかも教えてあげるよ。それとも
かっこいいイケメン男子としてのあり方もついでに教えれるよ。」
 何もかもが超越した杏の前に、青葉はただうなづくばかりだった。
 「じゃあ決まりだね。青葉は今日からボクの仲間。これをはくといいよ。もちろん、無駄毛の処理をやったうえでね」
 そういうと杏は三角形の布、競パンを青葉に渡した。
 


 その翌日から、市内のプールで杏が青葉に水泳の特訓をすることになった。まず青葉は全身の無駄毛をつつがなく処理させ、
競パンをはかせる。その後基本的なおよぎ方から陸トレのやり方までを叩き込む。
 最初は苦労した青葉だったが、才能が開花したのだろうか、すぐに上達していった。
 
 1週間後…市内のプールで。
 杏は一人の競パン姿の少年と話している。
 『どう、あの子は?』
 黒い髪で赤い瞳の不思議な感じのする美少年だ。
 「青葉はもともと才能があったのかな、水泳を教えたらすぐに上達していったよ。
 入部したら第一線で活躍するのは間違いない。」
 杏は目の前の少年に話をした
 『そう…あなたも青葉もあたし達の仲間みたいなものなんだから、そこんところは忘れないようにね』
 「わかってるよ…黒蛇堂さん。」
 杏は黒蛇堂の目をじっと見た。
 『…その名前、外で言ったら承知しないわよ』
 黒蛇堂は顔を赤らめていた

 別室では、金髪碧眼と赤い髪に水色の瞳の美少年が椅子に座っていた。
 『ちょっと紅ちゃん、はみ出してるわよ。』
 『えっ…』
 紅蛇堂は顔を赤らめながら競パンに自分のものをしまう。
 『どう、杏とやりたいの?』
 白蛇堂は紅蛇堂のパンツのもっこりを触る。
 『杏はまだまだ活躍してもらわないといけないし、これを杏に使うわけにはいかないわ』
 『それがわかってるんだったら、十分じゃない』
 白蛇堂と紅蛇堂はじゃれあっていた。

                                      続く