読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

風祭文庫・頂き物の館

風祭文庫の頂き物なども納める書庫です

頂き物・第5話「疑惑(サスピション)」

6月のはじめ
 いつもの通り杏は水泳部の朝練のためプールサイドにいた。
「木之下、久しぶりに二人っきりになったな」
 そういったのは杏と同じく水泳部で、中学時代からの付き合いである
遠山幸司だ。もちろん、杏が女の子だったことは知っている
 最近はお互いに忙しくなったのか、あまり水泳部でも顔を合わせることが少なかった。
「最近忙しいし、無理もないよ。それに、もう慣れちゃったから」
「そうか…あの製薬会社の事故からもう3年だもんな。」
杏も幸司も同じようなスペックだとみられている。
二人とも学年で1,2を争うほどの美形でありながらも十分な筋肉をもち、股間に張り付いた
競パンをたけだけしく張り上げている。この二人を見て気にならない女子生徒はいないだろう。
しかし…
「おお、木之下に遠山、お前ら、いい体してるよな!」
そういいながら一人の男子部員が杏と幸司の体に障ってきた。
彼の名前は久保丈二。3年生で水泳部の現キャプテンだ。
「ちょっと、何するんですか、セクハラですよ!」
杏は思わず女の子の時だったように言ってしまう
「なにって、男同士じゃないか」
「先輩、嫌がってるんですからほどほどにしてくださいよ、まったく」
幸司はあきれながら言った。
「ああ、すまんすまん。じゃあ、早く朝練を始めるぞ!
丈二は二人を置いてプールに飛び込んだ。
「本当に困ったもんだなあ」
杏は自分が女子だけでなく、男色を好む男性からも注目されていることを思い知らされた。

朝練が終わるころ、涼介が杏の前にやってきた。
「木之下、お前、この後すぐに生徒指導室に来いって。お前、何かやったのか?」
涼介が杏に言う?
「ええっ?ボク、何もしてないんだけどなあ…」
杏は急に呼び出されたことを思い出す。
「そういえばちょっと髪が長いかもしれないけど…」
沼ノ端高校の校則はほかの学校に比べると緩いといわれることが多い。
逆に言えば生徒指導室に呼び出されるのはよほどの問題を起こした場合だということだ。
「やばいなあ…」
杏は一瞬恐れおののいた。
「まあ、生徒指導の先生、結構美人の先生だから、そこはうらやましいなあ」
涼介は他人事のようにちゃらかす。
生徒指導部―中学生の時、女の子の時のように髪を伸ばしていてバッサリと髪を切られた。
自分が”女”であることを否定された場所でもあった。
「嫌なことがおこらなきゃいいけど…」

朝練後
生徒指導室は、どういうわけか保健室とは近い場所にあった。
「遅くなっちゃった」
杏は急いで生徒指導室に来ると、勢いよくノックをした。
「入って」
女性の声がした。

「あれ?」
「杏ちゃん、お久しぶりね」
目の前にいる女性は、やや青みがかかった髪をしている美人の女性で教師らしく
リクルートスーツを着ていた。
「確か柵良先生の妹の茉莉先生…」
保健医の柵良美里の妹で、普段は竜宮神社の巫女をしているのだが、
どうも生徒指導も兼ねてるようだ。
「(そういうことか)」
杏は感づいた。
「…あの、ボク何かしたんですか?」
杏は恐る恐る茉莉に問いかける
「いや、何をしたっていうんじゃないんだけど、ちょっと確かめてほしいものがあるの」
そういうと茉莉は写真を取り出した。
「これは…久保先輩!?」
「彼なんだけど、彼にはとんでもない疑惑があるの」
「確かに男が好きそうな感じはしましたが」
「それだけじゃないの、これを見てほしいの」
茉莉はなぜか着ているリクルートスーツを脱ぎ始めた。
「これは…ゲイポルノ?」
ちょうど動画サイトなどでネタにされているような生易しい作品ではないようだが…
「あ、再生するのは少し待ってね」
スーツを脱いで下着姿になった茉莉。杏が元女であると知っているのか、上のブラジャーも外していた
そして、下には水色のパンツ1枚になった。そして、
彼女がおもむろに力を入れる。
「(マッチョマンレディ、メイクアップ)」小声でそうつぶやくと、たちまち筋肉ムキムキ、漆黒の肌、スキンヘッドの
”マッチョマンレディ”へと変身した
『こうでも変身しないと見るに堪えないものなのよ』
レディは白い歯をむき出しにしながら答えた。

ビデオから流れたもの

―『お前のようなチャラチャラした奴がうろつかれるとこっちが迷惑なんだよ』

『だから、それだどーしたってぇ?』

と男性達がつかみあうシーンや、

『憲二、やめろぉ!』

『せっ先輩、好きです、

 おっ俺…

 先輩のが…』

といったシーンから、あるいは激しい輪姦といったものまで様々なシーンがあった。

「このビデオに久保先輩が…」
杏にも顔はわからなかった。だが、何回か問題のシーンを見たところ
「この体の特徴、ボクが普段よく見ている久保先輩と似ています。」
『そう、わかったわ。』
マッチョマンレディは杏のほうを見る。
「顔はわかりませんが、体つきを見ればこぼ先輩で間違いないでしょう。
うまく顔や声も隠してるし…」
杏がいった。
『たしかに、うちの高校ではAV出演はもってのほか、でも証拠がない限りは処分は下せない。
でも、そのせいでほかの生徒がきづつくことになったとしたらどうかしら。』
マッチョマンレディは話を続ける。
『この話を教えてきてくれた人がいるの、入っていいわ。』
『失礼します。』
「えっ!?」
 紺色のハイソックスに女子用の上履きをはいている。だが、その上は190㎝はあろうかという身長、全身の筋肉がたくましく隆起し、
アシックスのシンプルな競パンを猛々しく突き上げている。顔は黒いキャップとセパレートのゴーグルで覆われている。
首から女子の制服についているようなリボンを下げていて、手にはカフスボタンがついているが、
まぎれもなく競パンマン、いや、競パンマンに変身したまま学校に登校した咲子というべきだろうか。
『今日は風紀委員の取り締まりが厳しい日で、咲子さんが風紀委員なの知ってるでしょ』
マッチョマンレディがそういう。たしかに腕には風紀委員の腕章がある。
沼ノ端高校は化生の力を持った生徒が多く、必要に応じて化生の姿をとることは許されている。

『この話を知ったのは、あたしなの』
競パンマンは話を続ける。
『あたしと仲のいい野上綺羅と、水泳部の梢美佐って女の子、二人が久保先輩を巡って言い争うようになって…』
『しかも、二人ともこのDVDの存在は知っている、つまり二人とも久保先輩のために男になろうって…』
杏は言った。
「わかった。つまり、久保先輩に処分を下すことを考えているっていう話ね。」


生徒指導室から出た杏
「今日も部活があったな。部活の時にでも先輩に聞いてみるか。」

だが、その日、杏が想像していた以上に恐ろしいことが起ころうとしていた

続く